一般社団法人 日本薬剤疫学会

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コホート研究 Cohort study

定義

コホート研究(Cohort study)は、特定の曝露を受けた集団を経時的に追跡し、興味のあるアウトカムを観察する研究デザインである。コホート研究には、単一の特定集団でのアウトカムの発生を観察する記述的コホート研究と、比較群を設定して、ある曝露因子がアウトカムの発生に関係しているかを検討する分析的コホート研究がある。薬剤疫学研究では、特定の薬に曝露された患者の群(曝露群)とその薬に曝露されていない患者の群(非曝露群)の間で、アウトカムの発生率の比較を行いリスク比やハザード比などを得ることが主な興味の対象とされる。曝露以外のアウトカムの発生に関連する因子(交絡因子)が群間で偏ることで、曝露とアウトカムの因果関係の推定にバイアスが入りうるため、それらの因子を調整して群間比較を行うことが必要である。比較対照には曝露群と同様の治療(例: 同種同効薬、同種の手術法)を受けた患者群(active comparator)を置いたり、新規に治療を開始した患者(new user)のみを選択したりすることで、比較妥当性を確保することが重要である。その場合でも、適応による交絡(Confounding by Indication)や不死時間バイアス(immortal time bias)が生じる可能性に留意する。

実例

カナダ・オンタリオ州の66歳以上の住民を対象として、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の使用患者を曝露群(非選択的NSAIDs 5,391人、ジクロフェナクとミソプロストール併用5,087人、ロフェコキシブ14,583人、セレコキシブ18,908人)、使用しなかった患者を非曝露群(無作為選択 100,000人)とし、入院を伴う上部消化管出血の発生を2000年4月から2001年3月まで追跡調査した。

解析は非曝露群をリファレンスとしたCox比例ハザードモデルを用いた。共変量は、過去1年の入院歴、過去5年の既往歴・検査歴(悪性腫瘍、上部消化管出血、消化管内視鏡・放射線検査)、薬剤使用歴(過去1年の使用薬数、過去180日の麻薬性鎮痛薬、過去120日の抗凝固薬など6種薬)、年齢、性別、長期間の介護、および収入を考慮した。

その結果、セレコキシブ以外のNSAIDsは上部消化管出血の短期間の発生リスクを高めることが示唆された。

参考資料

    • Strom BL. Basic Principles of Clinical Epidemiology Relevant to Pharmacoepidemiologic Studies. In: Strom BL, editor. Pharmacoepidemiology, 5th ed. Chichester: Wiley-Blackwell, 2012. p43.
    • Mamdani M, Rochon PA, Juurlink DN., et al. Observational study of upper gastrointestinal haemorrhage in elderly patients given selective cyclo-oxygenase-2 inhibitors or conventional non-steroidal anti-inflammatory drugs. Bmj 2002; 325: 624.