ネステッド・ケース・コントロール研究 Nested case-control study
定義
ネステッド・ケース・コントロール(Nested case-control, NCC)研究は、2段階サンプリングを用いた研究デザインである。第1段階目で追跡可能なコホートを定義し、次にコホートの追跡中に発生する全てのケースを特定し、コントロールをサンプリングする。NCC分析では、コホート全体から部分的にケースとコントロールを抽出するため、適切なサンプリングと統計解析を実施した場合に、コホート研究での比較で得られる効果推定量(ハザード比など)と同等の効果推定量が得られる、統計上の効率が良い研究デザインである。詳細調査はケースとサンプリング後のコントロールに絞られるため、時間とコストの大幅な削減も可能である。
最も単純なNCCデザインでは、ある適格基準により定義されたコホートを追跡し、コホート内で発生した全てのケースを確認後(NCCではケース発生日をindex dateと定義することが多い)、各ケース発生時点の非ケースからコントロールをランダムにサンプリングして、ケースとコントロール間で曝露の有無を比較することにより、アウトカムと曝露の関連を評価する。コントロール候補は後にケースになる対象者も含む必要がある。このサンプリング方法をrisk set samplingと言う。研究期間が長期に及び、治療方法や医療環境の変化が懸念される場合には、時間軸は暦時間、または各対象者の観察開始日からの時間で一致させる場合がある。
解析は、マッチングを考慮した条件付きロジスティック回帰モデルによりオッズ比を得る。Risk set samplingでは、各ケースの発生時点でリスクセットからコントロールを選ぶため、ケースとコントロールの観察期間(人時間)は同じになる。したがって、Risk set samplingを行った場合の条件付きロジスティック回帰モデルに基づくオッズ比は、元のコホートにCox回帰モデルを適応して推定された非曝露群に対する曝露群のハザード比と一致する。
実例
1997年から2002年に米国のElectronic Health Recordデータベースで特定された40歳以上の糖尿病患者145,677人を対象に、糖尿病治療薬のピオグリタゾン曝露による膀胱がんリスクを、コホート研究デザインと NCCデザインのそれぞれで推定し、結果の頑健性を示した。
まず、コホート研究デザインでは、ピオグリタゾン曝露および非曝露コホートにて膀胱がんの発生を追跡して生存時間解析を行った。膀胱がん発生率は、曝露群で89.8(/10万人)件、非曝露群では75.9(/10万人)件であり、ピオグリタゾンの調整後ハザード比は 1.06(95%信頼区間 [95%CI], 0.89–1.26)であった。
次に、NCCデザインでは、対象のコホートを追跡し、コホート内で発生した全ての膀胱がん(ケース)を特定した。ケースの膀胱がん発症日をIndex dateとし、時点マッチングによりコントロールをコホートからサンプリングして464ペア(928人)を設定した。これら対象者928人に対し追加のインタビュー調査を実施し、既往歴や喫煙歴、職業曝露に関する情報を得た。追加で得られた情報を共変量に加えた条件付きロジスティック回帰分析により算出されたピオグリタゾンの調整後オッズ比は1.18(95%CI, 0.78‒1.80)とコホートデザインの解析結果と同様であった。
参考資料
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