日本薬剤疫学会

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ワクチンの安全性評価に関するTF

ワクチンの安全性評価に関するタスクフォース

 

ワクチンの安全性評価に関するタスクフォース活動のまとめ

 

報告者:望月眞弓(ワクチンの安全性評価に関するタスクフォース長)

報告日:2015年10月21日

 

 

ワクチンの安全性評価に関するタスクフォースは2014年2月25日開催第85回理事会において以下の提案趣旨のもと発足を承認された。これまで3回の会議およびシンポジウムを開催し、子宮頸がんワクチンの安全性評価について議論し、薬剤疫学的な観点から課題をまとめた。

 

<背景>

ワクチンの接種の適否の判断は、有効性とともに安全性の情報とを勘案し、さらに経済性とのバランスの上で行う必要がある。2013年4月より、ワクチン接種の安全性について、一定の診断基準に合致した副反応の報告が義務化されている(予防接種後副反応報告システム)。しかし、予防接種との因果関係や予防接種健康被害救済と直接結びつくものではないとされている。また、分母情報(接種者数)は把握されておらず販売数からの推計から接種回数として求めているのが実状である。このような状況で得られた情報からワクチン接種の勧奨の可否を判断したり、安全性情報提供を考えたりしていく状態を今後も続けていくことに誰しも疑問を持っている。

 

<目的>

ワクチンの安全性情報を適切に収集したり、評価したりするために何が必要かを薬剤疫学的な立場から検討する。

 

<活動メンバー50音順>

池田修一(信州大)、大橋靖雄(東大)、漆原尚巳(慶大)、川上浩司(京大)、木村友美(ヤンセンファーマ)、久保田潔((NPO日本医薬品安全性研究ユニット))、小島千枝(PMDA)、西川典子(愛媛大)、橋口正行(慶大)、廣居伸蔵(武田薬品)、別府宏圀(新横浜ソーワクリニック)、松尾富士男(スタットコム株)、村上 恭子(MSD)、望月眞弓(慶大)、山本美智子(昭和薬大)

 

<活動記録>

●ワクチンTF第一回会合議事録

日時:2014年5月26日(月) 19:00−21:00

場所:慶應義塾大学薬学部 1102会議室

出席者:川上浩司(京大)、木村友美(ヤンセンファーマ)、久保田潔(NPO日本医薬品安全性研究ユニット)、小島千枝(PMDA)、橋口正行(慶應大)、別府宏圀(新横浜ソーワクリニック)、山本美智子(昭和薬大)、松尾富士男(スタットコム 大橋先生代理)

議長:望月眞弓(慶應大)

書記:漆原尚巳(慶應大)

 

1. 本会合の目的と背景

- 議長より、ワクチンの安全性評価に関するタスクフォース(案)の提案として、本タスクフォース(TF)の目的、参加予定者について説明がなされた。本TFの目的を、「ワクチンの安全性情報を適切に収集し、評価するために何が必要かを薬剤疫学的な立場より検討する」とすることが提案され、参加者より了承が得られた。

- 引き続き議長より、ワクチン安全性の検討や情報収集、報告評価のプロセスなど、これまでの経緯について、別添資料を使用して説明があった。

- 次に小島氏より、ワクチンの安全性情報について、US、日本、EUの三極での現状について、発表資料及び別添資料を用いて現状報告があった。

 

2. 今後の活動方針について

- 議長より、本TFの活動方針について、以下の3本立てとすることが提案され、了承された。

i. ワクチン副反応のデータベース(DB)について

ii. ワクチン接種の医療消費者向けのリスクコミュニケーションのあり方について

iii. 個別のワクチン研究からの安全性情報の創出

 

3. 薬剤疫学会シンポジウムについて

- 2015年の松山での薬剤疫学学術大会の学会長 野元先生より、ワクチンに関するシンポジウムを行いたいとの要望が来ている。

 

4. 今後の予定

- 本TFの委員長を望月先生、事務局を漆原とする。

- 次回打ち合わせ時にシンポジストを決定する。

以上

 

●ワクチンTF第二回会合議事録

日時:2014年7月4日(金) 18:00−20:30

場所:慶應義塾大学薬学部 1102会議室

出席者:池田修一(信州大)、大橋康雄(中央大)、久保田潔(NPO日本医薬品安全性研究ユニット)、小島千枝(PMDA)、西川典子(愛媛大)、橋口正行(慶應大)、山本美智子(昭和薬大)、廣居伸蔵(武田薬品)

議長:望月眞弓(慶應大)

書記:漆原尚巳(慶應大)

 

1. 信州大 池田教授によるHPVワクチン副反応症例の紹介

2. 昭和薬大 山本教授によるワクチンとリクスコミュニケーションの紹介

3. 討議内容

以下について今後の方向性を検討した。

i. リスクコミュニケーションについて

ii. 日本薬剤疫学会(10月松山)におけるシンポジウム企画について

iii. その他

以上

 

●ワクチンTF第三回議事録

日時:2014年8月22日 18:00−21:00

場所:慶應義塾大学薬学部芝共立キャンパス 3号館5階 大学院セミナー室

出席者:池田俊也(国際医療福祉大)、池田修一(信州大)、大橋靖雄(中央大)久保田潔(NPO日本医薬品安全性研究ユニット)、小島千枝(PMDA)、西川典子(愛媛大)、橋口正行(慶應大)、山本美智子(昭和薬科大)、廣居伸蔵(武田薬品)、樋口昇大(PMDA)

議長:望月眞弓(慶應大)

書記:漆原尚巳(慶應大)

 

1. ワクチン副反応報告を収集する仕組みの現況確認

- 池田俊也教授より、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会からH24.5.23付で提出された、「予防接種制度の見直し(第二次提言)」により、特に9.副反応報告制度、健康被害救済制度についての説明をお聞きした。

2. 日本薬剤疫学会学術大会シンポジウムの発表内容の確認を行った。

1)山本先生 演題1「ワクチンにまつわるリスクコミュニケーション‐HPVワクチンの場合‐」

2)池田修一先生 演題2「HPV接種後の副反応—ケースの特定方法の重要性—」

3)樋口先生 演題3「ワクチンの副反応調査について」

4)松尾先生 演題4「統計学的側面からみたワクチンの有効性評価方法」

 

3. 本TFの今後の活動内容の検討

- ①薬剤疫学的なアプローチを用い、適正使用のためになる研究を行う、②国全体で対処すべき研究課題の提言をまとめる、などが提案された。大勢としては、②を進める方向である。継続して検討する。

 

4. その他 - 2014年3月の日本薬学会で発表された、子宮頸がん予防ワクチン副反応について日米英でとられた規制措置の国際間比較のポスター発表(慶應義塾薬学部医薬品開発規制科学講座)について説明があった。

 

 

●2014年度日本薬剤疫学会学術大会シンポジウムの開催(別添資料1)

薬剤疫学関係者が意識すべきワクチンに関する諸課題というテーマで座長:望月、池田で以下の要領でシンポジウムを行い、意見交換し情報収集した。

1. ワクチンに関するリスク・ベネフィットコミュニケーション

-子宮頸がんワクチンの場合−

演者:山本美智子(昭和薬科大学)

2. 子宮頸がんワクチン副反応の実態

演者:池田修一(信州大学医学部)

3. PMDAにおけるワクチンの安全対策の現状

演者:樋口昇大(医薬品医療機器総合機構)

4. 統計学的側面からみたワクチンの有効性評価方法

演者:松尾富士男(スタットコム株式会社)

5. 総合討論

 

<成果>

全3回の会議および1回のシンポジウムの議論から子宮頸がんワクチンを例として次の課題が抽出された。

 

●リスク・ベネフィットコミュニケーション関して、

・日本の生活者向け情報は、諸外国に比べて客観性に欠ける ・ワクチン以外の予防法などについてバランスよく提供されていない

・生活者向け情報内容について理解度調査を行うべきである

 

●副作用症例と報告に関して、

・投与前のデータを得ることが困難

・ワクチンは連日投与が行われないため、投与中止に伴う因果関係の評価ができない

・同時接種されることが多いため、個々の薬剤の因果関係を判断することが難しい場合が多い

・乳幼児に接種されるワクチンが多いため、疾患の発生率などのデータが少ない

・報告基準や報告期間が設定されていることで、報告がしやすくなるという一方、基準や期間に満たない症例が報告されない可能性がある

・因果関係の検討には背景発生率に関する疫学が必要である。

 

●ワクチンの有効性の評価に関して、

・ワクチンの有効性(VE)は,発症予防効果として介入研究,観察研究から推定される。

・ワクチン普及後に,新しいワクチン,改良ワクチンを評価する際,もはやVEの評価は実施上又は倫理上難しいため,サロゲートエンドポイントである免疫原性(主に液性免疫)が評価に利用されている。

・ワクチンによって産生される抗体価が,発症予防効果に代わるサロゲートマーカーであるためには,免疫学的相関と免疫学的閾値を評価しなければならない。

    免疫学的相関:三階層の枠組み(Qinら,2007)

    免疫学的閾値:a:bモデル(Siberら,2007; Chenら,2013)

 

なお、リスク・ベネフィットコミュニケーションについては、開示すべき情報内容として、以下が挙げられた。

・治療または予防(第一および第二次予防プログラム)の目的を説明すること。

・対象となる集団を定義すること。

・新たな治療または予防の選択肢が明確となるよう、病因(癌の原因、自然回復の可能性)を説明すること。

・ベースラインリスクを明らかにするため、疫学的データ(発生率と死亡率)を提供すること。

・絶対リスク減少率での治療効果を示すこと。

・絶対数(リスク増加)を用いて副作用を示すこと。

・幅広いリテラシーレベルの人々に伝える際、治療効果を示すために図を入れること。

・その治療法にかかる費用(費用対効果)を明らかにすること。 ・代わりの治療(予防法)について言及すること。

・他の指標を用いて比較すること。

(例:他の予防プログラムの効果、全体の癌死亡率、介入などのコスト)

・不確定なことを開示すること。

(例:免疫の持続期間、癌に対する予防効果)

・利益相反を開示すること。

 

 

<結論>

    前述の通りタスクフォースの活動から明らかとなった課題は多岐に亘る。また、それぞれ重要でありながら、日本薬剤疫学会がその専門性を発揮するには、副反応データベースの構築が発展途上であることや、子宮頸がんワクチンの課題の多様性から1学会での提言は困難であることを勘案し、本TFとしては、子宮頸がんワクチンに関する諸課題を明らかにしたということをもって一旦終了とすることを提案する。

  なお、先頃(2015年9月24日付)で一般財団法人医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団より「我が国のワクチン副反応報告制度および安全対策関連のインフラ整備に関する提言」が発出されており、関係各界の取り組みに対して期待が示されている。

(URL:

https://www.pmrj.jp/teigen/PMRJ_proposal5_Summary.pdf         https://www.pmrj.jp/teigen/PMRJ_proposal5_Vaccine.pdf

以上

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