自己対照ケースシリーズ研究 Self-controlled case series study
定義
自己対照ケースシリーズ研究(self-controlled case series, SCCS)は、イベントが発生したケースのみを解析対象として、同一個人内で焦点期間(focal window)*と参照期間(referent window)†のイベントの発生率を比較することにより、曝露とイベントの関連を評価する研究デザインである(図1)。
焦点期間は曝露がイベントの発生に影響を与えうる期間として設定され、参照期間は焦点期間および必要に応じて遷移期間(transition window)‡を除いた期間として設定される。曝露がイベントの発生に与える影響が時間変動しうる場合、焦点期間を複数に分割して、期間別に曝露を評価することができる。SCCSは個人内比較の研究デザインであるため、性別や遺伝的要因などの時間非依存性交絡の影響を自動的に取り除けることが強みである。一方で、SCCSには絶対リスクを推定できない限界があるほか、その使用にあたり下記のような主な仮定を満たす必要がある。
- イベントの発生が独立か、稀である
- イベントの発生がその後の観察期間の長さに影響を与えない
- イベントの発生がその後の曝露に影響を与えない
- 曝露がイベントの特定に影響を与えない
これらの仮定に違反した場合、推定値にバイアスが入るが、仮定の緩和を目的としたSCCSの拡張がいくつか提案されている。
* 文献3 国際薬剤疫学会推奨ガイダンスの定義に従い、focal windowを「焦点期間」とした。他の該当する表現にリスク期間(risk window)、曝露期間(exposure window)がある。
†Reference window、コントロール期間(control window)とも呼ばれる。
‡誘導期間(induction window)、ラグ期間(lag window)、キャリーオーバー期間(carry-over window)の総称である。

図1.自己対照ケースシリーズ研究(筆者作成)
実例
香港の医療データベース(Clinical Data Analysis and Reporting System)を用いて、メチルフェニデート(注意欠陥・多動性障害[ADHD]やナルコレプシーの治療に用いられる中枢神経刺激剤)の処方記録を有し、かつ救急科入院を要する外傷を経験した6–19歳の患者4,934人を対象に、小児・青年期のメチルフェニデートの使用が救急科入院を要する外傷を減少させるかをSCCSにより評価した。
メチルフェニデートの処方期間を焦点期間、それ以外の期間を参照期間とし、条件付きポアソン回帰を用いて、各期間の外傷の発生率を個人内比較した。その結果、救急科入院を要する外傷の発生率は、参照期間よりも焦点期間で低かった(発生率比0.91、95%信頼区間, 0.86–0.97)。
参考資料
- Farrington P, Heather W, Yonas GW. Self-controlled case series studies: a modelling guide with R. Boca Raton, Florida: CRC Press, 2018.
- Petersen I, Douglas I, Whitaker H. Self controlled case series methods: an alternative to standard epidemiological study designs. BMJ 2016; 354: i4515.
- Cadarette SM, Maclure M, Delaney JAC, et al. Control yourself: ISPE-endorsed guidance in the application of self-controlled study designs in pharmacoepidemiology. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2021; 30: 671-84.
- Man KKC, Chan EW, Coghill D, et al. Methylphenidate and the risk of trauma. Pediatrics 2015; 135: 40-8.