ケース・コントロール研究 Case-control study
定義
ケース・コントロール研究(case-control study)は、イベントが発生した者をケース、イベントが発生していない者をコントロールとして、ケースとコントロールの間で過去の曝露の有無を比較することにより曝露オッズ比を推定し、イベントとの関連を評価する研究デザインである。
妥当なケース・コントロール研究を計画するには、それに対応するコホート研究を想定し、デザインの指針にすることが有用である(表1、表2)。設定する推定目標(estimand)に応じて、用いるべきコントロールのサンプリング方法が異なる(表2)。統計的な精度を維持しつつ、情報収集するサンプルを減らすことにより研究コストを節減できることが利点である。
表1.コホート研究でのイベント発生数と人時間
イベントあり | イベントなし | 対象者数 | 人時間 | |
曝露あり | A1 | B1 | N1 (= A1 + B1) | T1 |
曝露なし | A0 | B0 | N0 (= A0 + B0) | T0 |
表2.コントロールサンプリングの種類
コントロールのサンプリング方法 | 累積発生サンプリング cumulative incidence sampling | リスクセットサンプリング risk-set sampling | ケース・コホートサンプリング case-cohort sampling |
サンプリングの概要 | コホートの追跡終了時点でイベントが発生していない者の中からコントロールをサンプリングする | コホートの追跡中に、ケースが発生した各時点のリスクセット (= その時点ではまだイベントが発生していない非ケース)から、コントロールをサンプリングする | コホートの追跡開始時点でコホート全体からコントロールをサンプリングする |
推定量 estimator | 曝露オッズ比 | 曝露オッズ比 | 曝露オッズ比 |
推定目標 estimand | 発生オッズ比 = (A1/B1)/(A0/B0) | 発生率比 = (A1/T1)/(A0/T0) | リスク比 = (A1/N1)/(A0/N0) |
稀な疾患の仮定 rare disease assumption | リスク比への近似に必要 | 不要 | 不要 |
A0、A1、B0、B1、N0、N1、T0、T1の定義は、表1を参照。
実例
オーストラリアのクイーンズランド州で国費による4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種プログラムが導入されてから4年後に、子宮頸部異常に対するワクチンの有効性を、累積発生サンプリングを用いたケース・コントロール研究により評価した。
研究対象者は、2007年に12–26歳であった無料接種対象者であり、かつ、2007年4月から2011年3月までに初めて子宮頸がん検診を受けた女性であった。そのうち、ケース群は、細胞診で異常が検出された女性で、組織学的に高度子宮頸部異常が確認された「高度ケース」(n = 1,062)、細胞診または組織診でその他の異常が認められた「その他のケース」(n = 10,887)に分類された。残りの細胞診が正常であった女性(n = 96,404)は、コントロール群に分類された。
多変量多項ロジスティック回帰モデルを用いて解析した結果、HPVワクチン3回接種の調整曝露オッズ比は、高度ケースで0.54(95%信頼区間[95% CI], 0.43–0.67)、その他のケースで0.66(95% CI, 0.62–0.70)であった。
参考資料
- Lash TL, VanderWeele TJ, Haneuse S. Modern epidemiology. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins, 2021.
- Luijken K, van Eekelen R, Gardarsdottir H, Groenwold R, van Geloven N. Tell me what you want, what you really really want: Estimands in observational pharmacoepidemiologic comparative effectiveness and safety studies. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2023; 32: 863–872.
- International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use. ICH E9 (R1) addendum on estimands and sensitivity analysis in clinical trials to the guideline on statistical principles for clinical trials. [https://database.ich.org/sites/default/files/E9-R1_Step4_Guideline_2019_1203.pdf (accessed 2024-4-30)]
- Vandenbroucke JP, Pearce N. Case-control studies: basic concepts. Int J Epidemiol 2012; 41: 1480-9.
- 漆原尚巳. ケースコントロールデザインとデータベース研究. 薬剤疫学 2023; 28: 57-72.
- Crowe E, Pandeya N, Brotherton JM, et al. Effectiveness of quadrivalent human papillomavirus vaccine for the prevention of cervical abnormalities: case-control study nested within a population based screening programme in Australia. BMJ 2014; 348: g1458.